「じゃあ、取りあえず皆でさぁ」と中野さんが言いかけたところ、もう一つ向こうの車両から、バタバタと沢山の足音が聞こえてきた。

「わー!可愛いお姉ちゃん!」
「今日来たの?ずっといる?」
「ねえ!僕達と遊んで!」


一斉に小学生位の男の子達が一斉に駆け込んできた。
半ズボン。でも東京さんたちが着ている服をそのままちっちゃくした様な、きりっとした格好。そして頭に何故か冠を載せている。
とても愛らしい顔だちはとても似ていて、兄弟かしら、でも皆顔が似ているというか、…寧ろおんなじ…それに、数…いち、に、さん…え?!8人もいるってことは8つ子?!

「こぅぉら!おめーら!俺が音頭取ろうって時に!」

「にーちゃんたちだけズルいじゃん!」

「おめーら、今日は出てくる予定じゃないだろ!」

「わーん。中野のにいちゃんがいじめるよー。おねえちゃん、たすけて!」
スカートの裾をきゅっと握る姿は愛らしいけど、一体このコ達何者?

「東京、お前も何か言ってくれよ」中野さんがため息をつきながら、子供達をあやしている。

「ははっ、東京ちゃんはお子さまが苦手かな」

「何をいう新宿。しかし、お前達、中野の言う通り、今日の予定ではないだろう。」



「だってー向こうの車両にいたら、お兄ちゃん達がすごい盛り上がってるって言うかー。」

「なんかすっごい珍しくテンションたかいっていうかー。」

「しかも可愛いおねーちゃんの声とか聞こえて来てー。」

「だからお兄ちゃんたちが、おねーちゃんにえっちな事してないか、ぼくらが見張りにきたんだよっ!」

「ぼくらは王子様だもの!」

王子?

「何言ってんだコラ!彼女のスカートの裾離してから言え!このエロガキが!」

「中野のにーちゃん、自分ができないからって、ぼくたちに焼きもちやいてんの?」

「もー。みっともないよ、落ち着こうよ。ほら。」

8人のうち1人を抱きかかえ、1人の手をとりながら、立川さんが促した。

「そうだ、吉祥寺のいうとおりだ。中野もおちついて。それから、お前達もこちらのお嬢さんに御挨拶なさい。」

「はじめまして、おねーちゃん、僕達、『八王子』です!」

8人が一斉に挨拶する姿に思わずきゅんとしてしまう。

「可愛い!」

「可愛いんじゃないよ!ぼくら王子だもの。お姉ちゃんを白いおうまさんにのせて連れ去る、しょーしんしょーめーの王子だよ?」

「さっきも言っていたけど、王子?」確かに、冠が可愛い王子様スタイルだけど…

「ぼくら本当に八人の王子がいたから八王子なんだ。」

「そう、八王子の地にはスサノオノミコトの八柱、要は子供が8人いたから八王子っていうのさ。コイツらが、その王子なわけ。」
一人のあたまをクシュっとなでながら中野さんが言う。

「え!?すごーい。八王子ってそういう意味だったんだ!」

「そう、僕らすごいの!ずるいよ、にいちゃんたちばっかり、こんな可愛いおねえちゃんとさ!…おれたち中野の兄ちゃんはライバルだからな!」

「おこちゃまがライバルかっつーの。」

「むぅ…」

小さくても、王子で男の子なんだ、なんだか可愛い!

「ねぇ、挨拶がすんだから、僕、お姉ちゃんの膝にのってもいい?」

とびきりの笑顔で八王子クンが私の顔を覗き込む。

「コイツら!こんどは子供のフリかよ!調子に乗るな!」

「中野兄(にい)の言う事なんか聴くかよー。」

「私の言う事はきいてもらいますよ。」

「東京さんだっ」東京さんのメガネがキラリと光り、8人ひとりひとりに言い聞かせるように言った。

「このお嬢さんは今日初めていらしたんだ。こんなに人数がいたら混乱されるだろう?今日は戻りなさい。今度ちゃんと改めて自己紹介をちゃんとするのだよ。」

「ちぇっ。東京さん怒ると恐いからな…今日は帰るけど、おねえちゃん、今度は僕とデートしてね!」

「おこちゃまにデートは早いっつってんだよ!」

「中野さん、子ども好きだから私、大丈夫ですよ。」

「ええ〜」がっくり肩を落とす中野さん

「え?!私なんか変な事いいました?!」

「君は…分かって無い!」

「うん、わかってないね。」ええっ?吉祥寺クンまで?

「じゃぁおねーちゃん、次はデートだよ!じゃあねー。」

またばたばたと駆け去る八王子クン達を見送りながら私は聞いた。

「あの…私、子ども好きっておかしいですか?」

「ちがうんだよ、子猫ちゃん。あいつらは子供の顔した、立派な大人ってわけ。まぁ男に子供も大人もないのさ。あいつら本気だぜ。」

「えー!」

「子猫ちゃんこそ、本当に子供だね…。」

「こら、新宿、お嬢さんを脅かすんじゃありません。大丈夫ですよ、お嬢さん。私は子供の扱いになれていますから。いざとなれば…。」

「立川さん…」でもいざとなればって?!サーベルに力入ってるんですけど!!

「あー。もう、みんな八王子(ルビあんなガキども)に振り回されちゃって。もー。仕切り直しっ。僕が仕切るから!」

「…ああ、そうしてくれ、吉祥寺。」

まだ、がっくり肩を落とす中野さん。なにかフォローした方がいいのかな?

「あ…あの、中野さん?私、中野さんの事、好きですから。」

「え?!」こんどは残りの4人が合唱する。

「八王子クンたちと同じに…」

全員のため息がもれる。私そんなに変なこといってる?!


「ちぇ、俺、八王子とおなじかよ〜。」

「あー。もう、驚かせないでよ!僕焦っちゃった。」

「…。」

「ははは、東京は声もでないのか。」

「そっそんなわけでは!」

「ま、夜はこれからだ、な、立川。」

「そうですね、新宿の言う通りです。私達のおもてなし、受けて頂けますね、お嬢さん。」

「は…はい!」

「いい返事だぜ!ガキどもにペース狂わされちゃったけど、そうこなくっちゃな!」

「僕らの大人の魅力全開だよ!」

「大人の魅力っていうのは、俺をみて言え、吉祥寺。」

「新宿さんはエロいだけじゃん。」

「…お嬢さん、申し訳ない、さあ仕切り直しましょう。今度こそ責任をもって、私が御案内しますよ」東京さんがそっと私をエスコートして、もう一度席につかせてくれた。

「また東京、美味しいところだけ持ってきやがって。」

「あなた方がしっかりしないからですよ。」

「ったく優等生なんだから、東京ちゃんは。」

ああ、でも私、どうなっちゃうのかな〜。不安になって私は聴いた。

「でも、えーと。あの、私、どうすればいいんでしょう?」

「貴女は何もしなくていいんですよ。お嬢さん。そこに居て楽しんで下されば、それでいいんです。」

「東京の言う通り!俺達と楽しくやろうぜ。」

「でも、僕らの話もきいてくれる?」

「そうですね、私たちのこと、まずは貴女に知ってもらう事から始めなくてはなりませんね。」

「そして、最終的には俺を永久指名だよ。子猫ちゃん。」

「新宿さん、そういった態度は改めた方がいいのではありませんか?」

「立川が今日はずいぶん挑戦的じゃないの…でも指名して、二人っきりになりたいっていうのが立川も、っていうか、皆も本音だろ?」

「えっ?二人っきり?」

「ほら、お嬢さんがびっくりしているじゃないか!」

「でも、二人きりになるには、だれかを指名しないとなれないよ。どうするの子猫ちゃん?」

挑発的な新宿さん。…ああ、なんて答えればいいの?!

「あの…私は、みなさんが素敵で、そんな選ぶとか…できないです!」

私、耳迄赤くなっているのがわかる。下を向いて精一杯の声で答えた。

だって、私に選ぶ権利なんか無いくらい、こんな素敵な人に囲まれて、いきなり選ぶなんてできる訳無いじゃない!
っていうか、もし誰かとでも二人っきりなんかになったら、私がどうにかなっちゃいそうなんですけど!


「彼女には新宿も負けのようだな。」

「…東京に言われたくない…が、こうなったら、まずは俺の魅力を分かってもらうしかないな。」

「当たり前でしょ、まだボクも全然お話してないもん。ボクと話してもいないのに、きめられたら困っちゃうよ。」

「俺は話す事たくさんあるぜ!」

「ダメだよ、中野さんの話す事はちょっと濃すぎ!」

「るっせーな!」

「私の話もきいていただけますか?」

「ほんとに今日の立川さん積極的…ボクもまけられない!」


そういって、みんなでたのしいおしゃべりが始まった。


東京さん、新宿さん、吉祥寺クン、中野さん、立川さん。
皆それぞれ魅力的で、とても素敵。

お話も凄く興味深くて凄く楽しい。さっきの八王子クンたちや、席のお話一つでもそうだけど、私、毎日のように中央線に乗っているのに、本当にしらないことが沢山ある…。

そんな彼等の話に、私は時間も忘れて聞き入っていた。



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