「いらっしゃいませ!ミラクル☆トレインへようこそ」

一斉に若い男の声が合唱した。

「…。」

言葉がでない。人は吃驚すると動けなくなるって本当…。

「おや?初めてのお方のようですね。」

少し年上の、端正な顔だちをした紳士が私に声をかけて来た。

「あの…私…中央線にのったはずで…。」

「そうですよ、間違ってはおりません。ここはミラクル☆トレイン、中央線です。私はこの列車を預かります、車掌でございます。お嬢さん、本日の行き先は?」

「…え?行き先?」

行き先どころでは無い。見る限り電車の車両であることは間違い無いけど、これってどうみても…


ホストクラブ!


車掌と名乗る男性の後ろには、ズラッと並ぶ、かっこいい燕尾服の男の人たち。


「車掌ちゃん、ほらいきなりだから、このコ固まっちゃってるよ。俺は新宿。今日は僕を指名しないか?」

ロン毛に茶髪で服を着崩し、いかにもホスト風。イケメンで一見やさしそうだけど、するどく私を見つめる目。

「し…新宿?指名?」

でもあまりにも似合い過ぎるその名前に、源氏名かしらと一瞬正気になりかけた…所に現れたのは、すらりと燕尾服を着こなし、メガネがお似合いの男性。すっかり腰をぬかした私に手を差し伸べている。

「こら、新宿!お前は!…お嬢さんすまない。私は東京。今日はゆっくりしていってほしい。」

「と…東京…さん?」

ああ、やっぱり全然私、正気じゃない…だってここは車両の中のはずじゃない!

頭が整理できていない私の前に、今度は可愛らしい少年…といっても18才くらい、チェック柄に片結びタイ。ショートカットにすこしかかったパーマがいかにもオシャレさんというか、メンズノンノから飛び出て来たような…

「そうだよ!ボクが運命の相手かもしれないよ!僕は吉祥寺。ジョージって呼んで。」

ジョージ…あたまがクラクラする。新宿?東京?吉祥寺?頭の中は大混乱。


すると、さっき車掌と名乗った紳士がやって来て

「こら、可愛いお嬢さんだからといって、そうわめくな。お嬢さん、貴女があまりに素敵なものだから、みな騒いでしまって申し訳ありません。行き先が本日はお有りでしたか?」

行き先って?

周りの状況を全く飲みこめていない私は、適当な返事をしてしまった。

「え…と、特に…」

すると、わっと歓声がおこる。

「じゃぁ俺たち皆で君を案内するよ!俺は中野!」

頭にゴーグル。ミリタリールックで、中野。あまりに似合い過ぎ!

「私は立川。今宵は我々とおつき合い下さい…素敵な人。」

長髪のプラチナブロンドに碧眼の立川と名乗る男性も現れた。すらりとした長身になぜか…サーベル?



「本日は沢山出勤しております。御指名がないということで、みなが貴女のお相手をできると湧いているのです。貴女のような素敵な方と一緒に過ごせるのは彼等も嬉しいでしょう。もちろん、わたくしもですが。」

車掌さんはそう言ってウインクをする。

そうして、私は男の人に囲まれて次の車両につれていかれたのだった。

「さあ、早速、席に案内しよう。…俺と、コンパーメント席、はどうだい?」

新宿さんの問いに私は頭が?になった。すると、

「新宿さん!なにぬけがけしてんだよ!」

吉祥寺クンが声をあげた。っていうか…

「あの…コンパーメント席ってなんですか?」

聞いたことも無い言葉。新宿さんの代わりに、中野さんが私に教えてくれた、その意味は…

「コンパーメント席っていうのは、個室のことさ。君、本当に可愛いね。新宿が連れ込みたくなるのもわかるよ。」

「えーッ!」

思わず顔が赤くなる。

「新宿!全くお前は!今日はみなさんでお相手すると言ったろう!ロングシートで御用意しろ!」

「へいへい、相変わらず東京ちゃんは優等生だねえ。ほら。立川、彼女を御案内して。」

「さあ、こちらですよ。お嬢さん。」

「あの…立川…さん?」

「なんでしょう?」

「『ロングシート』ってなんですか?」

すると、一斉にみんなが笑い出した。失礼しちゃう。なんで笑われないといけないの?!

「可愛い方ですね。」クスリと笑ったあと、立川さんは続けて教えてくれた。
「ロングシートというのは車両の両脇にそった長いシートの事です。みんなで楽しく過ごすには最適な席ですよ。」

へぇ…今迄、考えた事なかった。

「じゃぁ、クロスシートとかいわれても、分かんないでしょ?」

吉祥寺クンの言う通りだ。ちょっとはずかしいけど頷く。

「クロスシートは二人がけとかの席。新幹線とか特急列車とかは、大体クロスシートだね。」

「大抵二人掛けだから密着感がたまらないぜ、同じ方向を向いているのを特にロマンスシート、っていうのさ、子猫ちゃん。」

「こら新宿!」

「そしてクロスシートが向かい合っているのが『ボックスシート』。でもこれだと親密感がたりないな。ま…見られる快感もあるかもしれないが…。」

「新宿、いい加減にしろ!」

東京さんがまた怒ってる。この二人、仲がいいんだか悪いんだか。

「でも、私、こんなに電車に乗っているのに、今迄そう言う事考えた事なかった…ありがとう!教えてくれて。」

「くーッ!新鮮な反応、いいね!」中野さんが手を叩いて喜んでいる。

「中野の気持ちも分かります。我々に興味をもってもらえる事、それが一番嬉しいですよ。私達のこと、もっと貴女に知ってもらいたい…。」

東京さんのメガネ越しの目が優しく私にむけられる。
メガネの奥の澄んだ瞳は東京さんが凄く純粋な人なんだって伝わって来て、私はちょっとどきどきした。


「とりあえず、みんなすわろうよ!」元気のいい吉祥寺クンの声と

「…いつかは僕と君だけの個室席、楽しみにしているよ。子猫ちゃん…クスクス。まぁ今日は初めてだし、皆を紹介する意味もこめてロングシートに座ろうか。…さぁおいで。」という新宿さんに手をとられて、私は席についた。


席について周りを改めて見回す。

真面目な東京さん。
イケメンホスト風の新宿さん。
可愛い吉祥寺クン。
ノリのいい中野さん。
静かで温厚な立川さん。
温厚な紳士の車掌さん。

見回すと…なんだか…えっと。超イケメンばっかりなんですけど!?

そのイケメンズの目が一斉に私に向けられてる。

私、一体これからどうなっちゃうんだろ。…不安からか、コレから起きるミラクルにか、胸がドキドキするのをおさえられなかった。


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